多くの物語では、決別すべき自分の幼児期は「アルターエゴ」として表象される。純粋で、脆弱で、繊細で、道徳心が欠如し、利己的で、魅力的な「友人」がそれである。 その「友人」と「僕」は胸ときめくような一夏の冒険を共にする。けれども、夏が終わると、「友人」は何も言わずに「僕」から立ち去り、「僕」は深い欠落感を抱えたまま一人で生きることを決意する。 イノセントで甘えん坊のアルターエゴとの別離を通じて少年はタフでクールな「大人」になる。 アラン・フルニエの『ル・グラン・モーヌ』も、スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビイ』も、レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』も村上春樹の『羊をめぐる冒険』もどれも「そういう話」である。少年時代との決別はふつうはそういう説話的定型をとる。
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